ユーラシア紛争地特別フォーラム(2002年3月9日、早稲田大学小野講堂)レポート
●第1部(2)伊東氏挨拶無関心が暴力として機能する時代
伊東一郎(早稲田大学文学部教授)
当キャンパスもテロ騒ぎの“現地”
ご紹介いただいた伊東です。代表とは名ばかりで、あまりお手伝いもしていないので面映ゆい感じがしています。私はロシア文学、スラブ民族学を専門としておりますが、隣接する中央アジア、シベリアにも関心を持ち続けています。そして、アフガニスタンやチェチェンにも、関心を持っています。思い出しますと、大阪の民族学博物館におりました頃、ソ連のアフガン侵攻があって、当時民族学博物館にはアフガンの専門家がいなかったもので、マスコミの取材に対応するために、にわか勉強をした憶えがあります。
実は私の父が、第2次大戦後の1955年12月、カブールに日本大使館が再開された時に一等書記官として赴任し、1958年まで勤務していました。このため、当時、私は小学生でしたが、アフガニスタンの話はよく聞かされていました。また、父が撮影した当時のアフガニスタンのスライドが手もとに残っていたので、後ほどご覧いただくために用意してきました。
ところで、「9.11」以後にアメリカで、炭疽菌テロの騒ぎがありました。今日、このフォーラムが早稲田大学の本部キャンパスで行われていることと、この炭疽菌テロ騒ぎに関連する一つの動きについて、お話しておきたいと思います。
私が勤務している文学部は、当大学の戸山キャンパスにあります。このキャンパスのすぐ裏手に、10年ほど前に国立感染症研究所が移ってきました。この研究所は以前の国立予防衛生研究所で、あらゆる病原体物質を扱って、動物実験をしている施設です。移転が明らかになった段階で、当地のような住宅密集地かつ文教地区に相応しくない施設であることから、地域住民と早稲田大学の教職員が原告団を結成し、移転反対の裁判闘争を闘い、一審は敗訴しましたが、現在、控訴中です。
この炭疽菌は、どうも米軍のフォートデトリック細菌研究所から出たものらしいということです。この細菌研究所と私どものキャンパスの裏手の国立感染症研究所は共同研究をやっているので、ブッシュ大統領がテロに対する報復戦争を宣言した時に、同研究所もテロの対象となるのではないかという懸念がクローズアップされました。我々地元としては、近くの市ヶ谷の自衛隊駐屯地と感染症研究所が、両方とも一度に狙われるのではないかと、かなり心配していたのです。
小泉首相は、自分の膝元にこんな懸念があることを知ってか知らずか、対米追随一辺倒の姿勢を示していますが、今日、このフォーラムの会場となっている当大学キャンパスも、広い意味ではアフガニスタンと同様、「9.11」後の危機的事態の「現地」であるとも考えられます。このことも、参加者の皆さんに知っておいていただきたいので、お話しました。
“無関心な人々を恐れよ”目次へ戻る
私の専門であるロシア文学の大先輩で、昨年亡くなられた江川卓さんという方がおられます。彼が訳された本の中に、ヤセンスキーという人が書いた『無関心な人々の共謀』という、スターリン主義を批判した小説があります。そのエピグラフを紹介しましょう。
“敵を恐れるな、敵は君を殺すのが関の山だ。友を恐れるな、友は君を裏切るのが関の山だ。無関心な人々を恐れよ。無関心な人がいればこそ、世界には裏切りと殺戮が存在するのだ。”
このエピグラフのように、現代は関心を持ち続けることが大変重要な時代であると同時に、無関心であることが一つの暴力として機能するという、まさにそういう時代だと思います。今日1日、有意義な情報の獲得に役立てていただければ、主催者として大変うれしく思います。有り難うございました。
2003 ユーラシア紛争地フォーラム実行委員会